泉 康雄と表面化学グループの研究紹介 ***** 現在改訂中 *****

2016年1月4日 月 14:11

マークをクリックするとPDFファイルをダウンロードできます)サイトマップ

ようこそ!

論文

著書・総説

研究紹介

経歴

アクセス

連絡先

言いたい放題

研究グループ

リンク

-

1. 性能が良すぎる、固体触媒表面の結晶モデル

 

排ガス触媒、石油から燃料やプラスチックへの変換、アンモニア合成等、私たちの生活に固体触媒表面は欠かせません。しかし、固体触媒表面は、古典的なやり方で作られるため、下図aのように活性成分A(青丸)と活性成分B(赤丸)が接し合った時のみ触媒作用を示します。青丸に接していない活性成分Bは休眠状態(灰色の丸)になっているため、非効率的です。

当研究グループでは、最近の化学の流行になっている金属–有機構造体(Metal–organic framework (MOF)、または有機無機ハイブリッド錯体ともいう)を合成し(下図b)、それに活性成分Aを混ぜ込むことで、新たなデザインの2元金属–有機構造体(binary MOF)を創案しました(下図c)。活性成分Aを銅水酸化物、活性成分Bをオキシ水酸化チタンとすることで、水素ガス中で極めて高活性なCO選択酸化触媒として働くことを示しました(JCatal2012Journal of Catalysis 2015)。

 

Binary MOF
 

燃料電池用の水素を化石資源から、改質反応(CmHn + 2mH2O = (n+4m)/2H2 + mCO2, CmHn + mH2O = (n+2m)/2H2 + mCO)および水性ガスシフト反応(CO + H2O = CO2 + H2)を経て得られますが、炭素種が一酸化炭素(CO)としてわずかに残ります。わずかなCOでも燃料電池の電極をダメにしてしまいます。

ナノ合成した紡錘状酸化亜鉛に、銅イオンを吸着させることで、水素ガス中の10000 ppmのCOを2CO + O2 -> 2CO2と光選択酸化して10 ppm以下にすることができました。酸化亜鉛等安価な物質のみを用いた持続可能な方法です(JCatal2012 Jounrnal of Catalysis 2012)。

この反応は紡錘先端の(0 0 0 -1)面でのCO酸化反応とそれに接した{1 0 -1 1}面でのO2還元反応により、結晶面を挟んで進行する作用機構を推定しました(JCatal2012 Journal of Physical Chemistry 2015)。

 

PhotoPROX mechanism

 

2. 二酸化炭素の光燃料化

自然エネルギーの中でも、太陽から地上に届く1時間当りの光エネルギーは、地球全体で1年間に使われるエネルギーに等しく、将来的に大きな潜在力があります。現在、光エネルギーによりCO2を変換する研究は盛んに行われていますが、本研究グループでは現在の流行に先駆けて(CoorChemRev2013 Coordination Chemistry Reviews 2013; CoorChemRev2013 ACS Book 2015)、自然光を利用して二酸化炭素を光燃料化する触媒を開発しました(右下図JCatal 2011 Journal of Catalysis 2011, CatalToday2012 Catalysis Today 2012)。銅・亜鉛・ガリウム(あるいはアルミニウム)を含む合成粘土を触媒として、カチオン層間に濃縮された二酸化炭素(炭酸水素種)を光によって生じた電子と反応させ、触媒的にメタノールへ導かれる様子が赤外分光やX線分光により明らかになりました(下図ApplCatal2014 Applied Catalysis A 2014)。

本研究グループの触媒は安価であり、発電所や工場で排出する二酸化炭素を軽減させるか、また、触媒じしんが二酸化炭素を濃縮する性質をもつことから、室内の二酸化炭素を光燃料化する応用が考えられます(特開2011–31155)。

さらに光酸化系(酸化タングステン)と光還元系(上記層状複水酸化物)とを組み合わせたCO2の光燃料化も実証し、銅サイトに気相CO2が結合することがメタノール/CO化の必要条件であることを示しました(右上図CatalSciTec2014 Catalysis Science & Technology 2014)。さらに、金/銀ナノ粒子の表面プラズモン共鳴との組み合わせにより、可視光の更なる活用にも成功しています(ApplCatalA2015 Applied Catalysis A 2015)。

ごく最近の高圧CO2 + 水蒸気、あるいは高圧CO2 + H2から光触媒フィルムを用いた光燃料化高速化については、2016年3月に開かれる251回アメリカ化学会にて発表します(右下図)。水の方が水素よりCO2と反応しやすい、という化学の根底を覆すような結果を得ています。

2014CatalSciTech

Photoreduction on Grass

2011 JCatal

Photoconversion of CO2

 

3. 水を燃料とする光燃料電池

 

水を燃料とする光燃料電池ができれば、水素やメタノールの燃料や高価な白金を必要とせず、また水から生じた酸素を電池内で再還元してリサイクルすれば、永久に使い続けることが可能になります。

本研究グループでは、右のようなエネルギー図に基づく光燃料電池を創案し、実証しました(CatalSciTec20142014B;特願2014–242685、特願2013–211926、特願2012–254796、特願2012–223765)。3ボルトの高電圧を得られる点が大きな特徴で、シリコン太陽電池・色素増感太陽電池・高分子電解質燃料電池では得られない高電圧です。

本光燃料電池は銀ナノ粒子と酸化チタンとのショットキー障壁による整流作用を活用していますが、n型酸化チタンとp型オキシ塩化ビスマスとを組み合わせた、光電極表面での電荷の向きを制御したさらに高出力の光燃料電池の実証にも成功しています(原著論文審査中)。

オプトロニクス | 5月29日の日経産業新聞6面

 

Photofuel cell

 

Photofuel cell Illustration

 

-

4. 過去の研究成果(アーカイブ)

 

固体高分子型燃料電池は、低温で働きコンパクトな利点があります。実用化のネックになっているのは触媒で、高価で持続可能とはいえない白金を用いなくてはいけません。本研究グループでは、規則メソ細孔酸化ケイ素を鋳型として利用することで白金を1ナノメートルまで微小化し、鋳型の中で炭素ナノチューブを白金ナノ粒子にアンカーさせるレプリカ合成を開発しました(右図2010)。酸化ケイ素はフッ酸で除去することによりO2ガス拡散経路ができ、炭素ナノチューブの優れた電気伝導特性と合わせて、優れたカソード触媒性能を示しました。さらに、活性炭を硫酸処理することで、電子とプロトン双方を伝導させた燃料電池を実現、その作用機構を放射光X線法により明らかにしました(J Power Sources2014)。

 

 

上述の種々の発見は、明確な原理付けがあってこそ信頼性をもって利用でき、さらなる改良が可能になります。

本研究グループで開発した可視光(400〜800ナノメートルの光)で働く揮発性有機物分解用触媒(2007)について、酸化チタンにドープしたバナジウムや硫黄イオンがダイナミックに光により生じた電子をもらい、反応物質に渡す過程を選択X線分光法により調べました。本研究グループで開発した分光法によれば、活性なバナジウム/硫黄種の構造と価数をセットに分析が可能で、光触媒反応機構の詳細が解明されました(2007, 2007, 2008, 2009, 2009)。

3ナノメートルの金ナノ粒子でCO選択酸化が起きる際のO2分子へ電子供与し、O2解離に至る中間体を捉え、CO選択酸化反応機構を提唱しました2008)

プロピレンと一酸化炭素と水素ガスからブチルアルコールのみを合成する触媒を発見しました。選択X線分光により調べたところ、酸化ケイ素が成す規則配列した3ナノメートルの細孔内にできた、ロジウムとモリブデンとの合金ナノ粒子によりこの選択合成が進むことを明らかにしました(2007)。

 

フェライト表面でアミノ酸やDNAが相互作用するその場を捉え、ドラッグデリバリーする研究(2006)、一分子磁石や光触媒となりうる、リング状酸化モリブデンクラスターの自己集合機構を調べる研究(2010)、環境中微量有毒元素(鉛、ヒ素)除去用に開発した吸着剤の作用機構を調べる研究(2006, 2005, 2002, 2002)、NOx浄化ナノ触媒の作用機構を調べる研究(2003, 2002)を行なっています。